コラム “志・継・夢・承”
事業承継やM&Aにまつわる思いを
気ままに綴っています

2024年

M&Aの「ない」「のに」「ちがう」Vol.60

世の中に“M&A”が当たり前のように広がってくると、当たり前のように悪事を働く人も出てきます。これは、M&Aが1つの“産業”として定着してきたからともいえます。しかし、中小企業の事業承継に関わるM&A、つまり、“自分の会社を売る”というM&Aに二度はなく、売ったら終わり、取り返しがつきません。期待外れの高級レストランで『金返せ!』『もう二度と行かない!』とつぶやいて済むような話ではなく、売った会社(株式)はもちろん、支払った手数料も戻ってこない、さらには、自分や家族、社員の人生も巻き込んで、重い荷物を抱えてしまうこともあるでしょう。これは、売り手だけでなく、買い手としてもありうることです。

M&Aを支援する機関として中小企業庁に登録している法人・個人は直近で大小2,300者超、もちろん、他にもM&Aをビジネスにしている人は数多いますし、今も日本のどこかで、毎日数件のM&Aが成立しているわけですから、M&Aに関するクレームやトラブルが目についてくるのも当然です。例えば、その不平不満の声は、『ない』『のに』『ちがう』という3つのワードに集約できたりします。

  1. 『ない』
    説明が足りない/なにもしてくれない/納得いかない/聞いてない/交渉過程が見えない/
    買収後の経営がうまくいかない/契約でカバーできていない/入金がない。
  2. 『のに』
    着手金を払ったのに/高い仲介手数料を払ったのに/信じていたのに/
    高く売れると言ったのに/もっと安く買えたかもしれないのに/途中で止めたいと言ったのに
  3. 『ちがう』
    話が違う/想定と違う/約束が違う/開示された数字と違う/手数料の計算根拠が違う/
    デューデリジェンス(買収監査)の報告と違う。

こうした『ない』『のに』『ちがう』の原因は同じだったり、複合的な要因で生じたりもします。ただ、その原因が、明らかに騙す意図のある“詐欺”なのか、アドバイザーのプロフェッショナルとしての力量不足ゆえに起きる“トラブル”なのか、はまったく別の話です。中小企業のオーナー経営者が、M&Aに関しては、知識・情報・経験という点で弱者であるのは致し方ないとはいえ、『ない』『のに』『ちがう』を回避するための見極めと対応は、経営者として絶対に必要なものとなりました。

もはや、M&Aは、買いでも売りでも、経営者にとって特別なことではなく、経営課題の一つであり、経営者としての大事な仕事の一つになったと考えて、向き合っていかなくてはなりません。

以 上

<真>
2024年8月

“鳥の眼”と“魚の眼”Vol.59

新入社員の頃、職域営業の勧誘やお付き合いで加入した生命保険が30年以上の時を経て、契約の更新や満了を迎える年齢になりました。ひさしぶりに訪れた生命保険会社の営業所では、壁に貼られたスローガンや個人成績グラフといった光景は昔と変わらぬままでしたが、生保レディの手元にはタブレット、個人情報や契約内容が一目瞭然でシミュレーションもその場で自由自在、電子署名ゆえ印鑑不要と、現場のデジタル化がしっかり進んでいて驚きでした。こうして何十年という単位で息の長いビジネスをしてきた生命保険会社が、本業への危機感と次の時代を見据え、数千億円という資金を投じて“時間”を買い始めました。

日本生命は、昨年11月、介護最大手のニチイ学館を約2,100億円で買収、介護・保育・医療事務という事業を手中に収めました。超高齢社会において、サービス提供体制の高度化を図るため、本業の保険販売にすぐには結びつかなくとも、生命保険を中心にさまざまな安心を届ける“安心の多面体”を目指すものです。

また、第一生命は、1万5,000社を超える企業や団体に福利厚生代行サービスを提供するベネフィット・ワンを約2,920億円でTOB(株式公開買い付け)、今後、完全子会社化して、従来の“保険業”から“保険サービス業”へという事業変革の中核に据えます。約950万人の顧客を有する福利厚生サービス事業のプラットフォームは、健康・医療やつながり・絆といった体験価値領域の事業の拡大を目指すなかで保険事業との相乗効果が期待されるものとなります。

明治安田生命保険は、業法上、“生命保険”という文字が社名から外せないゆえ、ブランド通称を『明治安田』に変更、保険だけを扱うイメージから脱却し、生命保険会社の役割をも超えた、予防医療や健康増進、さらには格差や孤立などの社会課題を解決する企業でありたいとしています。

生保業界に限らず、こうして、業界を超えて、

  1. - M&Aが経営戦略になっていること
  2. - M&Aで“事業”と同時に“時間”を買うということ
  3. - M&Aの判断には“鳥の眼”と“魚の眼”が不可欠であること

が、大企業・中小企業を問わず、すべての業界、すべての企業に求められるようになった・・・と、昔ながらの生命保険会社の営業所での待ちあい時間、時の経過と時代の変化に思いを巡らせていました。

以 上

<真>
2024年6月

『退職年表』と『社員ピラミッド』Vol.58

今年の春は、少し遅い桜が入社式や歓迎会と重なって、少し華やかに季節が始まりました。
この4月の新入社員は、コロナ禍で卒業式や入学式が中止になり、学生生活の大半をオンライン授業で過ごした世代ですが、会社や社会がどんなふうに見えているのか?受け入れる側では、部署に新入社員が一人配属されるだけでも会社が若返った感じがするものです。ただ、実際は気持ちだけで、会社の社員の平均年齢は新入社員が少々加わったくらいでは下がりません。

上場企業となれば「社員の平均年齢」が公表されていますが、自分の会社も含め、意外と知らなかったりします。例えば、「トヨタ自動車40.6歳」、「ソフトバンクグループ40.5歳」、「ファーストリテイリング38.0歳」、「楽天グループ34.4歳」など、企業イメージとは違った、意外な数字が並びます。ちなみに、昨年上場したアパレル企業のyutoriの社員の平均年齢は27.1歳、片石社長は30歳です。

社員の平均年齢は、会社の姿を映し出す1つの数字です。その数字には、いろいろな背景が隠れていて、そもそも新入社員ゼロの中小企業もあれば、企業規模も高卒者も大卒者も関係なく、就職後3年以内の離職率は3割を超えていたりもします。一方、65歳までの定年延長や70歳までの就業機会確保の努力義務などの永く働くことができる仕組みができても、高齢になればなったで健康問題や家族の事情で働きたくても働けない、あえて働かないことを選ぶ人もたくさんいます。

特に、中小企業では、人手確保のために定年延長に頼るだけでなく、受け皿となる人材を増やし、後進への技術伝承や事業承継を進めながら、会社の若返りを進めなくてはなりません。経営者自身の若返りは、後継者さえいれば自らの決断ですぐ実現しますが、会社の若返りはそうはいきません。

ついては・・・

  1. まずは、会社の現実の姿を知るため、自社の『退職年表』を作ってみましょう。
    この先10年で何人の社員が定年を迎えるか?
  2. そして、自社の社員の年代別の『社員ピラミッド』を作ってみましょう。
    ピラミッド型か、すり鉢型か、ひょうたん型か?その形は今後どう変化していくか?

終身雇用や年功序列、新卒一括採用といった言葉は死語となり、桜と入社式は無縁のものになっている・・・、そう遠くない未来かと思い浮かべながら、『年表』と『ピラミッド』から打つべき手を考え、春、次へと動く季節です。

以 上

<真>
2024年4月

今を生きるVol.57

一年のうちで最も希望に溢れ平和を願う心で世の中が満たされている日、神に願ったところで空しいことと思うか、神に願ったからこそ救われたと思うか。いずれにせよ、天に人間の暦は関係なく、何事も人間の思い通りにはいかないことを思い知らされました。

震災やコロナを経験して、人間の力ではどうにもならないことがあるとわかっていたはずなのに、すぐに忘れて、すぐ他人事になって、『明日も元気。来年もきっと。なんとかなる。』と考えてしまうのが“ニンゲン”という生き物の悲しいところでもあります。

平穏で何気ない日常が続くことこそが幸せや平和であるということを“ニンゲン”に気づかせるため、天は、新年早々に警鐘を鳴らしたのかもしれません。なんでもない日々が続くことこそがありがたいこと、でも、当たり前のことが当たり前でなくなる時はいつ来てもおかしくはない、のだと。

でも、ニンゲンは、強くて賢い生き物でもあります。今、先が見えなくて不安な方も一日一日を大切に生きてください。寒さ、不自由さ、辛さ、悲しみをなんとか乗り越えてください。目の前の現実はどんなに辛くても悲しくても、朝は必ず来ます、空は晴れ、冬が終われば春は必ずやってきます。

今を生きるものには、ニンゲンという生き物として有する経験と知恵と行動でもって、生命をつなぎ、社会を維持する使命があります。

2024年、一人でも多くの人が笑顔で前を向いて進める一年になりますように。
今を生きるものとして、また、残されたものとして、改めて、希望と平和を祈ります。

以 上

<真>
2024年1月