コラム “志・継・夢・承”
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2025年 |
忘れないでいることVol.65 |
一年を通して、年末年始の1月もしくは12月は、亡くなられる方が多い月という統計があります。人の命や生死にかかわる仕事といえば、医療従事者の方をはじめ、葬祭、介護等がすぐ思い浮かびますが、意外と、金融業である「事業承継ファンド」も例外ではありません。事業承継ファンドの仕事である『中小企業のオーナー経営者が保有する全株式を譲り受け、経営を委ねられ、会社を継承する』というプロセスは、会社の経営の行く末だけではなく、オーナー経営者のこれまでの人生やこれからの人生も含めた“人生そのもの”に関わるものです。 “事業承継”は、オーナー経営者が“死生観”をもってはじめて考えられることであると思っていますが、ゆえに、一生のうちでも終盤、つまり、高齢になってから動き出すことが多いので、当然、病や死にまつわる話も少なくありません。これまで出会ったオーナー経営者の方でも、余命宣告されたことで事業承継に動かれた方、会社をファンドに託した後に程なく天に召された方、株式譲渡契約の締結目前で泉下の客となられた方もいらっしゃいます。生死を前にすると、“オーナー経営者”という肩書を外した一人の人間として相対することとなり、当たり前ですが『同じ人間なんだな』と思いながら喜怒哀楽をともにすることとなります。 事業承継ファンドの仕事として、オーナー経営者との間で会社を“託す・託される”というやりとりをするなかで、病や寿命という“人としての一生”に向き合わざるをえなくなったときには人は何とも無力であり、“できること・できないこと”の“できないこと”ばかりで空しくなります。そして、振り返ると“できたこと・できなかったこと”の“できなかったこと”が多くて、もっと何かできたのではと悔やまれます。 でも、ずっと一緒に生きられるわけもなく、ただ見送ることしかできないのなら、残された人間や託された自分たちにできることは、出会えた奇跡に感謝し、忘れないでいること、覚えていることです。オーナー経営者が、社長として歩んできた道や人として生きてきた証、作ってきたもの、愛してくれたお客さんはしっかりと残っています。 そして、オーナー経営者が築き上げてきた実績や功績、その結晶ともいえる“会社”はもちろんですが、日々、人として、さりげなく交わした言葉、握手した手の温もり、最後に手渡してもらったコンビニ弁当・・・そうした光景をふと思い出し、たとえ永遠はないにしても、忘れずにいたいです。事業承継ファンドという仕事は、そうした他愛もない日常も大切に想いながら、経営に取り組むことで成り立っていると考えています。 最後の最後まで経営者として頑張って人生を全うされた故人への敬愛と感謝の想いを天に届けるため、今、唯一できることは、“忘れないでいること”です。 以 上 |
<真> 2025年2月 |
開かれる 2025Vol.64 |
1月11日の“鏡開き”で正月気分も一区切りですが、鏡餅を“割る”とは言わずに、末広がりを意味する“開く”と言うのは日本語ならではの表現です。そして、2025年の日本は、企業の大小を問わず、“開かれる”ことを求められる1年となりそうです。 2024年は、国境を越え、想像も超えた、大型M&Aが話題になりました。例えば、「日本製鉄によるUSスチールへの買収計画(2兆円規模)」や「カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタール社からのセブン&アイ・ホールディングスへの買収提案(7兆円規模)」、「日本生命の米系生保レゾリューションライフの買収(1.2兆円)」等が挙げられます。日本製鉄やセブン&アイHDの案件は、越年して、2025年もその展開から目が離せません。 また、「KKRとベイン・キャピタル(いずれも米系ファンド)による富士ソフトの争奪戦」「ベネフィット・ワンへのエムスリーと第一生命による国内企業同士のTOB合戦」等、会社を買う、買われる、奪い合うことが市場で繰り広げられ、買い手も異業種や同業もしくはファンドが突然現れるなど、ターゲットとなった企業の経営陣が好きも嫌いも関係ない“同意なき買収”が当たり前になってきました。 現状に甘んじている、あるいは、ほどほどの成長で満足しているとみなされる上場企業には、株主や市場からさまざまな圧力がかけられ、選別が始まり、決断が迫られています。 こうした資本市場の大きなうねりは、中小企業にとっても、主要取引先がM&Aしたりされたりするなど、いつどういう形で自分事となるかわからず、もはや傍観者ではいられません。例えば、日産自動車とHONDAの経営統合にあたり、両社と取引のある企業は重複を除いた単純合計で23,440社に達し、そのうち、売上高10億円以下の中小企業が約15,000社とされています(東京商工リサーチ調べ)。 上場企業が株主から変革と株主価値向上を迫られるなか、未上場企業も『今のままでいい』と許される状況にないのは確かです。未上場企業であっても“開かれた会社”であることが当たり前”という意識で経営を進めていかなければ、未来はありません。 2025年、上場企業も中小オーナー企業も“資本のありかた”を根本的に見直すことが求められる一年となりそうです。 以 上 |
<真> 2025年1月 |