コラム “志・継・夢・承”
事業承継やM&Aにまつわる思いを
気ままに綴っています

2023年

If you can dream it, you can do it!Vol.50

春、卒業や入学、別れと出会いの季節です。“事業承継ファンド”という仕事でも、“卒業生”を送り出しました。ファンド業界では“EXIT”と呼ばれるのを、弊社では“卒業”と言い換えています。卒業にも、いろいろな形がありますが、今回は、MBO(Management Buy-Out/経営陣による買収)=投資先の経営者が自ら資金調達してオーナーである株主から株式を買い取って独立する、という形での卒業でした。

27歳の時、『社長になる』という決意をして手帳に記した若いサラリーマンがいました。社長になるにも、いろいろな道がありますが、それから21年後の2020年、48歳で事業承継ファンドと出会い、後継者不在でファンドが譲り受けた中小オーナー企業の後継社長に請われ、『社長になる』という夢にたどりつきました。

そして、それから3年、中小企業の経営者として、ビジョンを描き、社員を導き、組織経営に移行し、業績も順調に伸ばしてきました。ただ、ファンドの投資先は、通常3~5年で卒業し、また、新たな株主と経営を迎え、次のステージを歩み出します。よって、外部招聘された経営者も卒業して、今度は、“プロフェッショナル経営者”として歩み始めるのが一つの道です。

ただ、今回は、“オーナー経営者”として、資本も経営も経営者として自らが引き受けるという、経営者自らが切り拓いた道です。『3年とはいえ、経営者としてここまで創りあげてきた会社。この先、大変かもしれないが、まだやれることもやりたいこともある。社員のみんなとこのまま頑張っていきたい!』。この覚悟ができたらMBOです。経営者自らで資金を調達し、株主であるファンドから株式を買い取るしかありません。資金調達も容易ではありません。『社長になる』よりも難しい道です。金融機関が経営者を信頼し、会社の事業計画に確信を持たなくては、そう簡単には、株式の買い取り資金は融資してもらえません。そして、いきなり、業歴30年、社員130人を超える中小企業の“オーナー経営者”になるわけです。知識や能力はもちろんですが、自覚、覚悟、責任、決断、社員への想い(愛?)、相互信頼といった人間力も不可欠です。

そして、2023年の春。27歳で決意した『社長になる』という夢を超える夢、『オーナー社長になる』ということを51歳にして叶え、また、新たなスタートラインに立ちました。

熱い想いと行動が周囲を動かすこと、夢を夢で終わらせずにあきらめないこと、“夢は叶う”ということ、経営者を志す人には勇気や希望を与えることでしょう。また、後継者問題に悩むオーナー経営者の方々に知っていただくことで、事業承継の選択肢を増やすことにもなると信じています。

最近、事業承継問題の解決策として、後継者不在の中小企業を探して自らが経営者になることを目指す人材、いわゆる“サーチャー”と、その会社の株式を譲り受ける資金を提供する“サーチファンド”が増えています。今回のように、ファンドも併走しながら、サラリーマンから“経営者”となり、MBOで“オーナー経営者”になるという形は、サーチファンドとは似て非なるものですが、いずれも、“経営者になるための道”ではあります。

『夢見ることができれば、夢は叶う!』
この春、夢を叶えようとそれぞれの道を歩みはじめた方々の自立や旅立ちを心から祝福し、応援しています。

以 上

<真>
2023年4月

旅する ~長良川鉄道~Vol.49

『君を旅へつれていく 終わりのない旅 星への旅へ』と歌ったのは、SFアニメ「銀河鉄道999」の主題歌です。「宇宙戦艦ヤマト」(1974年~)や「銀河鉄道999」(1978年~)といった壮大なスケールのSFアニメを残し、2月、漫画家の松本零士さんが85歳で星の海に旅立たれました。地球からイスカンダル星に航海する戦艦や銀河を旅する列車で描かれる宇宙や冒険といったテーマは、こども心にワクワクしたものですし、歳を重ねれば“人生は旅”“人は旅人”“人生は冒険”としみじみ思えるようにもなりました。

なかなか旅らしい旅ができないなかで、岐阜県を縦断する長良川鉄道に乗りました。岐阜県郡上市白鳥町の北農(ほくのう)駅から美濃太田駅(美濃加茂市)まで上る単線の総距離は72.1km、うち約50kmは長良川に寄り添うように走るゆえ、車窓からの鉄橋や清流が行き交う景色に飽きることはありません。スーツ姿なのが残念ですが、パソコンやスマホには触れまいと決めて鉄道模型のような一両だけの車両の固い座席に身を委ねました。

北濃駅から終点まで38駅あるうちの4つめの美濃白鳥駅から、乗客は地元のお年寄りや旅行者らしき10数人という車両に乗り込みます。ただ、のどかな雰囲気は束の間で、郡上おどりで知られる郡上八幡駅から幼稚園児がわんさか乗り込んできてあっという間に賑やかになり、さらに美濃加茂市に入ると、沿線に通学する学生の下校時間とも重なり、当初想定していた旅のイメージとは違い、もはや、都会さながらの混雑ぶりです。車窓を流れる風景が情緒溢れる自然から町へと変わり、見知らぬ老若男女で次第に賑わっていく、たった一両の満員電車は、変わりゆく人生や社会の縮図のようでもありました。

人生はよく旅に例えられますが、実際の人生は、どこが終点か、いつ終点に着くのか、どこに向かっているのかすら、列車に乗っている自分にはわかりません。ただ、軌道は変えられないものの、乗り合った人とどう過ごすか、どこで降りるかは各々の自由です。

終点がいつかどこかわからない列車の乗客として、自分で降車駅を決める、つまり、自分にとっての終着駅を自ら決めるにはなかなかの勇気が必要です。『まだ乗っていていいか』『もう少し行けるところまで』『そろそろ降りて歩いてみるか』。いや、そうこうしているうちに突然、終点を告げられるのか。

そういえば「銀河鉄道999」の最終回はどうなったか記憶にないな・・・と思いながら、当然決まっている終点で降りて2時間20分の旅を終えました。でも、終点がいつかどこかわからない列車にはまだ乗ったままでいます。

以 上

<真>
2023年3月

舞いあがれ! ~小さなネジの大きな夢~Vol.48

『今、朝ドラ、事業承継の話ですね。』と、ある会社の社長に言われて、『え?』と戸惑いました。NHKの朝の連続テレビ小説、いわゆる“朝ドラ”は、テーマや舞台となる地域、脚本家で興味をひかれれば観るのですが、今、放送中の『舞いあがれ!』は、ヒロインの福原遥さんが空を飛ぶことに憧れてパイロットになるまでの奮闘を描く話だと勝手に思い込んで観ていなかったので、いつの間に?何が起こった?と慌てた次第です。

東大阪でねじを製造する中小企業、家業を継がずに投資家になった長兄、オーナー社長の急逝、奥さんが社長に就任、主人公である長女の舞はパイロットの夢をあきらめて家業へ。その後、ねじ工場の再建でリストラや信用金庫との折衝、最近は、航空機部品への参入にも挑戦したようで、この先、空へ「舞いあがれ!」となるのでしょうか。

事業承継でいえば、池井戸潤さんの小説『陸王』もドラマになりました。社員20名ほどの老舗の足袋製造業者の四代目社長(役所広司さん)が、会社の存続をかけた新規事業として、足袋の製造技術を生かしたランニングシューズの開発に挑戦。素材探しや資金難、世界的なスポーツブランドとの熾烈な競争といった課題を乗り越えていく話ですが、ここでも、当初は家業を継ぐつもりがなかった、社長の息子(山﨑賢人さん)が、迷った末に自らも会社に飛び込み、新規事業の立ち上げに携わるという“事業承継”のドラマです。

こうして、“親族内承継“が、ドラマや小説でも身近なテーマになってきていますが、ここ最近、メディアでよく目にするのが『アトツギ甲子園』です。中小企業庁が主催し、全国の中小企業・小規模事業者の39歳までの後継者が、先代から受け継ぐ経営資源を活用した新規事業のアイデアを競います。2021年に始まり今年で3回目。今まさに3つの地方大会で選抜された“アトツギ”が3月3日の決勝大会に向けて、『変わりゆく時代のなかで、会社の永続にコミットする後継者として家業をいかにアップデートするか』を発表し、競っています。

親にしてみれば、朝ドラの舞さんもアトツギも頼もしい限りでしょうが、現実では、本当にうまくいくのか?苦労を背負わせるだけにならないか?と心配は尽きないでしょう。でも、事業承継の選択肢は、親族か親族外かの二者択一です。親族への承継の割合は、中小企業で3割、小規模事業者で9割というデータもあります。

息子でも娘でも、社員でも外部人材でも、オーナー経営者として『任せられる』と思える後継者がいるのなら、それは奇跡です。となれば、その人に継がせるためにはどうすればいいかを精一杯かつ柔軟に考えるべきです。そして、後継者が見当たらなければ、オーナー経営者が自らで“親族外承継のドラマ”を創り、その“主演”、“プロデューサー”、“助監督”をするしかありません。ただ、“脚本”と“演出”、“監督”は信頼できるプロフェッショナルに頼ることをお忘れなく。

以 上

<真>
2023年2月

仕舞う ~年賀状~Vol.47

2023年、新しい年になりました。
年初の習わしの「年賀状」、公私ともに、出す枚数も受け取る枚数もかなり減ってきました。誰が名付けたか“年賀状じまい”をする方が増え、巷では『年賀状じまいはがき』も売られていました。私自身も、小学生の頃から50年近く続けてきた年賀状ですが、最近では、喪中はがきが増える、出していなかった人からの年賀状に慌てて出すラリーが続く、LINEで済ませるなどの理由で、年々、出す枚数が減り、年賀状ソフトに頼らずとも、手書きの方が効率よく丁寧に書けるほどの枚数になりました。

今年、会社でも“年賀状じまい”をさせていただきました。これまで、虚礼廃止という波にも負けず、形式的な文面ではなく近況報告も書き加えているから“虚礼”ではないと続けてきましたが、昨今、環境意識の高まりやSDGsの観点で“年賀状じまい”をするという風潮になってくると、もう潮時かと決断しました。

日本の「年賀状」の歴史は、平安時代まで遡り、年始の挨拶回りで実際に往来していた習慣が書状に簡略化されたのが始まりとされています。一般に広がったのは、明治4年(1871年)の郵便制度開始以降ですが、平成15年(2003年)に約44.6億枚発行されたのがピークで、2010年頃からは、高齢化をはじめ、メールやSNSへの代替などで減少傾向となり、今年2023年の正月用に発行された年賀状は16.4億枚と、ピーク時の約3分の1になっています。

永く続いてきた習慣や風習が終わるのは寂しいことですが、まったくなくなるのか、新しい形に変わっていくのかでは意味合いが違います。“年賀状じまい”したからといって関係を断つわけではなく、『年の初めに、自分の人生で大切な人とつながり、相手を思いやる』という、本来の目的を果たすための風習が、時代に合わせて形を変えるだけで、150年以上にもわたって続く、この習わしはこれからも受け継がれていくものと考えたいです。

ちなみに、“年賀状じまい”の“しまい”“しまう”という言葉は“仕舞う”や“終う”と書き、“仕舞う”は能や茶道の世界でも使われる言葉です。同じ“しまう”でも“舞”という文字が入っていると日本独特の美しい趣きや文化を感じます。

さて、永く続けてきたことをおしまいにするのは、オーナー経営者にとっての“社長業”も同じです。オーナー経営者が“社長業”を仕舞うときも、すべてを終わりにするのか、新しい形でもって仕舞いとするのか。本来の目的を忘れず、大切にして、その響き通り、きれいな“仕舞い”ができるように、今年も、事業承継の新しいカタチを生み出し、美しい“仕舞い”をお手伝いしていきます。

以 上

<真>
2023年1月